統計数理研究所とパナソニックが結晶構造予測AIアルゴリズムShotgunCSPを開発、世界最高性能を達成

記事の要約
- AIを活用した結晶構造予測アルゴリズムShotgunCSPを開発
- 結晶の対称性予測により大規模結晶系の構造予測が向上
- 機械学習と第一原理計算の融合で世界最高性能を達成
結晶学的知識を学習したAIの開発と成果
統計数理研究所とパナソニック ホールディングス株式会社の研究グループは、2024年12月20日に材料の組成から結晶構造を高速かつ高精度に予測する機械学習アルゴリズムShotgunCSPを開発したことを発表した。このアルゴリズムは結晶構造予測のベンチマークにおいて世界最高性能を達成し、結晶の対称性を予測する機械学習アルゴリズムによって複雑で大規模な結晶系の構造予測の性能を飛躍的に向上させている。
従来の結晶構造予測では、第一原理計算による評価を繰り返し実行する必要があり、特に大規模な結晶系では計算資源が膨大になるという課題があった。統計数理研究所とパナソニックの共同研究グループは、機械学習アルゴリズムを導入することで安定な結晶構造が持つ対称性のパターンを高精度で予測できることを発見し、探索空間を大幅に絞り込むことに成功したのである。
ShotgunCSPでは、転移学習を用いることでごく少数の学習データから高精度なエネルギー予測器を構築することが可能になった。新たに開発された結晶構造生成器を用いて多数の仮想結晶構造を生成し、エネルギー予測器によって安定構造の候補を絞り込むことで、従来手法では解決が困難だった複雑な結晶系の構造予測を実現している。
ShotgunCSPの特徴まとめ
項目 | 詳細 |
---|---|
開発機関 | 統計数理研究所、パナソニック ホールディングス株式会社 |
発表日 | 2024年12月20日 |
主要技術 | 機械学習、第一原理計算、転移学習 |
特徴 | 結晶の対称性予測による探索空間の効率的な絞り込み |
予測精度 | 全結晶系の約80%を正確に予測可能 |
結晶構造予測について
結晶構造予測とは、特定の条件下で材料や化合物がどのような結晶構造をとるかを予測する技術のことを指す。主な特徴として、以下のような点が挙げられる。
- 原子や分子の規則的な配列を予測する技術
- 第一原理計算によるエネルギー評価を利用
- 材料の物性を決定する重要な要素
結晶構造予測は物質科学における基本問題として20世紀初頭から研究されており、半導体や医薬品、電池などの材料開発に不可欠な技術となっている。従来の手法では計算コストが高く、特にユニットセルに30~40個以上の原子を含む複雑な構造の予測が困難であったが、機械学習の導入により効率的な予測が可能になってきている。
ShotgunCSPに関する考察
ShotgunCSPの開発は、結晶構造予測における計算コストと精度のトレードオフという長年の課題を解決する画期的な成果である。機械学習による対称性予測と転移学習を組み合わせることで、少ないデータからでも高精度な予測が可能になったことは、材料開発の効率化に大きく貢献することが期待できる。今後は医薬品開発や新規電池材料の探索など、幅広い分野での応用が見込まれるだろう。
一方で、現状でも全結晶系の20%程度は正確な予測が困難という課題が残されている。より複雑な結晶系や極限環境下での構造予測の精度向上が今後の課題となるが、並列計算との親和性が高いShotgunCSPのアルゴリズム設計を活かし、大規模計算による性能向上が期待される。また、予測精度の向上には学習データの質と量の両面での改善が必要となるだろう。
今後はShotgunCSPをベースに、高温超伝導材料や次世代電池材料、新規触媒など、さまざまな機能性材料の探索が加速することが期待される。機械学習と物質科学の融合によって、材料開発のパラダイムシフトが起こる可能性も十分にあり、この技術の発展が科学技術イノベーションを牽引する重要な役割を果たすと考えられる。
参考サイト/関連サイト
- PR TIMES.「結晶学的知識を学習したAI ~結晶構造予測タスクで世界最高性能に到達~ | パナソニックグループのプレスリリース」.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000006135.000003442.html, (参照 2025-03-05).